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東京地方裁判所 昭和58年(む)592号 決定

事件

主文

本件準抗告の申立てをいずれも棄却する。

理由

一本件準抗告申立の趣旨及び理由は別紙準抗告申立書写し記載のとおりである。

二一件記録及び当裁判所の事実調の結果によれば、被疑者は昭和五八年七月二日暴力行為等処罰に関する法律違反被疑事件により逮捕され現在代用監獄である練馬警察署留置場に在監中であること、申立人は被疑者の弁護人であるが被疑者と接見するべく同月一一日午前一〇時前ころ被疑者の在監する同署に赴き同署留置担当官に対し被疑者との接見を申し入れたところ、指定書持参でなければ接見させない旨の回答を得、申立人の方で同日午前一〇時半ころ本件の担当検察官である服部三男雄に対し電話で即刻接見したい旨を申し入れたところ、同検察官は、検察庁に来庁のうえ指定書を持参して接見されたい旨答えたこと、なおその際、申立人としては検定官の右回答は一般的な接見の禁止である旨述べるにとどまり、そのため検察官としても取調の実情等を勘案しての即時ないし爾後の具体的な接見の指定に言及するに至らなかつたこと、申立人は検察官の右回答をもつて接見拒否処分があつたとして同日本件準抗告の申立に及んだものであることの各事実が認められる。

三ところで、書面による接見指定には指定の内容を明確にし接見をめぐる過誤紛争を未然に防止するとともに不服申立があつた場合の審判の対象を明確にするなどの利点があり、従前口頭による接見指定に際し具体的接見時刻等について現実に関係者間に紛争が生じたことがあつたことや、本件においても申立人は当初事実に反し検察官の方から接見指定処分があつた旨申し述べて直ちに接見しようとした事実が窺われることに徴すると右利点を軽々に看ることはできず、特に弁護人又は弁護人となろうとする者において直ちに被疑者と接見しなければならない緊急の必要性がある場合とか、接見指定書を受け取るために検察庁に出向くことが弁護人又は弁護人となろうとする者にとつて著しい負担となる場合など特段の事情のある場合を除き、検察官が接見指定を書面でなすこと及び弁護人又は弁護人となろうとする者に対し右書面を受け取りに来るよう要求することは許されるものと解すべきである。

本件においては、特に申立人において右のような被疑者と接見しなければならない緊急の必要性があつたとは認められず、また、検察庁(本庁)、弁護人の事務所(東京都新宿区三栄町)被疑者の在監場所(練馬警察署)の距離関係からして接見指定書を受け取るために検察庁に出向くことが申立人にとつて著しい負担となるものとも認められない。

そうすると前記検察官の措置には何ら違法不当なものはなく従つて同検察官が申立人に対し被疑者との接見を拒否したものとはいえないから結局申立人の各申立はいずれも前提を欠き失当であるといわざるをえない。

四よつて、本件準抗告の申立はいずれも理由がないから刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(川口政明)

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